エド・ブルベイカーが語る『ベルベット』


2014年7月にアメリカのカルチャー情報サイト Wired に掲載されたエド・ブルベイカーのインタビューの一部を日本語でご紹介。『ベルベット』のルーツや、同作品の実写化が難航している理由について話しています。

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ジェームズ・ボンドが秘書!?のスパイスリラー

ベルベット』のアイディアは、1970年代の英国スパイドラマ『The Sandbaggers』 で、諜報機関 MI-6 の局長が新しい秘書を探すシーンを見て思いついたという。

「面接の過程で、諜報機関の局長の右腕になるために必要な資格が明らかになってくる。その人物は、局長が知るべき事をすべて知り、かつ不必要な情報を省く事ができなければならない。結果、組織内で最も知識があり、重要な人物なのに、外の世界からは単なる秘書としか見られていない」

「僕の叔父は CIA の一員だった。父も60年代から70年代前期にかけて、海軍の情報部に居た。小さい頃、家族の集いで語られるベトナム (戦争中) のクレイジーな話を聞いて育ったんだ。大人達は僕らが聞いていると思っていなかっただろうけど、夢中で聞き入ってたね。父がスパイ映画を観に連れて行ってくれた時も、鑑賞後に現実との違いを教えてくれた。間違いの少ないスパイ小説も指摘してくれたよ」

 

少女がスパイを志した理由

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少女時代のベルベット。様々な年齢の女性を描き分けるスティーブ・エプティングのタッチにも注目。

外交官の娘だったベルベットがスパイを目指した理由について。

「ベルベットがスパイになろうと思ったきっかけが、彼女の過去に起きた悲劇であってほしくなかった。例えば父親をテロリストに殺されたとか」

「少女が父親の持ち物を探っているうちに、ものすごいヒーローのような女性スパイが存在すると知り、自分もそうなりたいと願うようになる……そのアイディアが気に入ったんだ。第二次世界大戦中に父親が外交官だったら、そうすると思わないかい?父親が寝た後に、書類を読みあさるだろう。僕だったらそうしていたね」

 

ハリウッドに中年女性は不要?ベルベットの年齢について

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1970年代。ベルベットは秘書で40代半ば。

ベルベットがスパイとして活動していたのは50年代から60年代にかけてだが、読者が秘書のベルベットと出会うのは70年代初期。ちょうどフェミニスト革命が主流になった時期にあたる。その頃、秘書ベルベットは40代半ばで、彼女の過去を知るのは、局長と一握りの者だけだ。

「男性中心な従来のスパイ物語を反転させて、大人の中年女性が主人公の話が書きたかった」

ベルベットの年齢はキーポイントだとブルベイカーは言う。窮地に立たされた弱い娘ではなく、経験豊かな大人として描く事で、スパイとしても深い経歴をベルベットに与えることができる。

「諜報の分野では、誰かが秘密の過去を持っていても不思議じゃない。20年間、偽りの職業に就いていることだってあるかもしれない。でも、実際に人生を生きたキャラじゃないと真実味がないよね」

だが、『ベルベット』をテレビシリーズとして売り込んだ時、ベルベットの年齢は予想以上に議論を呼んだ。

「どこからも、『彼女を25歳の訓練生にしろ。上官はクールな男性スパイで』と言われた。何と言うか…呆れてしまったね。人生経験豊富なキャラではなく、ベルベットより20年若くて、彼女のノウハウも熟度もないキャラの方がいいと言うんだから」

「リアム・ニーソンのキャラが30歳の『96時間 (Taken)』を想像できるかい?それは全く違う映画だよ」

ブルベイカーもファンの女優ダイアン・レーンが、「40歳になった途端、面白い役がなくなった。母親役か、若い女性に夫を奪われた妻の役ばかり」と言及していた事について。

「子供じゃない女性のために面白い役を誰も書かないって事が信じられないよ。(活躍中の) 男優は30〜40代ばかりなのに。ジェームズ・ボンドになった女性の役は存在しない」

 

英雄だった女性達のその後

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ベルベットが憧れた女性

第二次世界大戦を生き抜いた女性スパイ達のその後について、戦時中に英国でコードブレイカーとして活躍を許されたが、戦後は主婦として限られた社会的役割に戻るしかなかった女性達の葛藤をドラマ化した『The Bletchley Circle』を例にとって語る。

「彼女達は興奮を求めている。あの頃を取り戻したいんだね。戦争の勝利に大きく貢献したのに、公職守秘法のため、(戦時中何をしていたか) 何も言えない。だから彼女達がどんなにカッコよかったか、誰も知らないんだ」

「たとえば、スーパーパワーを持っていたのに、ある日突然それを失くしてしまったら?力を失くした後の人生はつまらない事だろう。もう飛べないんだから。非日常を生きてきた人が、日常に戻る辛さだね。大人の40代半ばのキャラだからこそ経験する事で、中年期のアイデンティティ・クライシスでもある。もう人生のピークを過ぎてしまったのだろうか?と自問する時期の事だ」

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原文の記事はこちら。
http://www.wired.com/2014/07/velvet-comic-brubaker/

20年間のブランクを秘書として過ごしてきたベルベットが過去の姿を取り戻した理由とは?ぜひ本編でベルベットの活躍をお楽しみください!

vevet1_coverベルベット第1巻 ビフォー・ザ・リヴィング・エンド

文:エド・ブルベイカー
絵:スティーブ・エプティング
翻訳監修:吉川悠
翻訳:山根真紀

ISBN:978-4-9907983-0-7
定価:1900 円+税
電子書籍:700 円+税

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Ed Brubaker (エド・ブルベイカー)

コミックライター。

1990年代からインディーズコミックを書き始め、ハーヴィ賞やアイズナー賞のノミネートで脚光を浴びる。ハードボイルド小説に影響を受けた犯罪物語に定評があり、2000年代から DC で Catwoman (キャットウーマン)、Gotham Central (ゴッサム・セントラル)、Sleeper (スリーパー) などのシリーズにも犯罪物語のスタイルを適用。その後マーベルで Immortal Iron Fist (イモータル・アイアンフィスト)、Daredevil (デアデヴィル)、Captain America (キャプテン・アメリカ) などのシリーズを手がけ、ファン層を確立した。

DC やマーベルでスーパーヒーローものを書く傍ら、オリジナル作品の制作も続け、Sleeper (スリーパー) の絵を手がけたショーン・フィリップスと共に Criminal (クリミナル)、Incognito (インコグニート) を出版。

ベルベット (Velvet) はキャプテン・アメリカのシリーズでコンビを組んだアーティスト、スティーブ・エプティングとの共作。